日本木材加工技術協会九州支部国産早生樹連絡会(会長・松村順司九州大学教授)主催の「早生樹最前線Ⅱ-1」が2月28日(金)午後1時30分より九州大学椎木講堂で開催された。新型コロナウィルスの脅威で各方面のセミナー等が中止に追い込まれる中での開催ながら全国各地から多数の関係者が参加、国産早生樹への関心の高さを証明した。
冒頭の挨拶の中で松村教授が「2011年、当時箱崎にあった九州大学で開かれた早生樹の第1回シンポジウムが化学反応を起こして関西にも伝播、林野庁にも大きな影響を与えた。早生樹の歴史がここからスタートしたと言っても過言ではない」と述べたように、そのセミナーに参加していた日本木材加工技術協会関西支部のメンバーの琴線に触れ、熊本発の「センダン」が海を越えて本州に渡った。その後本州では関西支部内に早生植林材研究会が発足、大阪の(一社)平林会が管理する「平林ウッディパーク」に20本のセンダンが植林された、7年前のことである。以降、研究用に各地に植林されたセンダンは産学官の研究者の手によって実験・検証が行われ、産業用の国産広葉樹としての期待感を膨らませている。
当日は東京から林野庁の本郷浩二長官が来賓として出席し「広葉樹はストライクゾーンが狭く難しいというのが私の感覚だった」としながらも「後継者不足の今の林業、スギ・ヒノキの50年は待てない。だが、センダン、コウヨウザン等の早生樹は魅力いっぱいだ。次の世代の林業を変える力になるのではないかと思って今日は勉強に来ました。是非、活動を続けて日本中の関係者に知らしめてください」とエールを送り、最後に「みなさん!とにかくシカを何とかしましょうよ」と呼びかけ、シンポジウムが始まった。
第一部のメインテーマは「早生樹の商品展開と実用化に向けた活動」。最初の講師は㈱丸仙工業田中範社長、テーマは「(協)福岡・大川家具工業会が取り組む“SOUSEI”PJ活動」。同氏は、家具の街・大川の復権を目指して街おこしの活動に取り組み、その一環として「SOUSEI」プロジェクトを立ち上げて「早生樹センダン植樹祭」を挙行している。また、大川化粧合板工業協組の池末和海(有)トマト社長は低迷する突板業界(ツキ板)の活性化に向け、以前より早生広葉樹に着目していたところ早生樹センダンと出会った。早速、製材や家具試作を繰り返し、センダンを使った様々な商品世を世にしている。さらに国産早生樹の品質レベルの向上とブランド化が必要だと話した。三番目の講師は研究者の立場から京都府大の糟谷信彦助教が「荒廃農地対策と木質材料原料としてのセンダン」と題して講演。実験により、センダンは合板用としてはフローリング基材として針葉樹と同等、パーティクルボードの物性は現行使用のものと遜色はなく、MDFの原料としても使用が可能だと述べた。国家的な大問題となっている荒廃農地へのセンダン植林は、兵庫県宍粟市の実例を示しながら「行政・農業委員会等との調整は多難だったがセンダンは順調に育っている。地形的にも里山に近くシカの食害には注意が必要だ」と話した。第一部の最後はパナソニックライフソリューションズ創研の中ノ森哲朗上席コンサルタント。彼はセンダンの仕掛人の一人であり国産早生樹の伝道者としても活躍している。「国産早生樹の実用化に向けた活動の重要性」をテーマに日本の林業再生に向けてこれまで取り組んできた事例を紹介しつつ、輸入材に頼り切っている広葉樹の現状を分析し「今の資源を活かし、再造林で短サイクルの早生樹の植栽と、日本固有のスギ・ヒノキとの分林で新しい森林資源の活用に向けた活動を推進すべきだ」と述べ、林野庁を含む関係者のチャレンジ精神を鼓舞した。
第二部は「林業への取り組み提言に向けた実践活動」をメインテーマに、センダンを世に知らしめた熊本県林業研究・研修センターの横尾謙一郎部長が登壇した。センダンの研究を20年以上取り組んでいる彼はいま林野庁内では「ミスター・センダン」と呼ばれている。ケヤキの代替として流通しているセンダンを市場では一般的な4m、末口30cm以上の通直材とし、20年以内の短伐期施業を目指している。細川知事時代に着手し、次の講師である福田国弘氏の父上が開発した「芽かき」を駆使して通直材にするなど様々な施業試験を繰り返してきた。材価が低ければ意味がないがセンダンはそれなりの値段で流通可能だという。横尾氏が試算したセンダンの経済性については【別表】の通り。今後は植栽前の利用履歴による地拵え費用の違い、地力による下刈り費用、成長量に伴う伐期の違いを鑑み、経済性についてはより一層のデータの蓄積が必要で、長さ2mの直材生産時の伐期の解明と経済性の検討が必要だと話した。
前述の福田氏は「栴檀の未来研究会」を主宰し、センダンの普及活動を生産者立場から系統選抜、苗木の形体と生産量の確保、植栽方法の先進化手法の開発等を課題として会員の研修、実践、基礎知識の習得などに努めている。つまり彼の地道な活動はセンダンを産業用材として広く世に認知してもらうための縁の下の力持ち的な活動である。
シンポジウムは大分県林業研究部の佐保公隆氏による「チャンチンモドキ、ユリノキの育成」のあと質疑応答に移り、松尾和俊全天連会長の言葉で閉会した。